川戸由起さんのコラム

「ゆずり葉という名の産婦人科 その一」

●「ユズリハ」という木を、ご存知ですか?

 ユズリハは、初夏に新しい葉がのびてから、古い葉が落ちます。このように、新旧が交代して絶えることなく続くということから、この名前がつきました。

 この春、この木の名前がつけられた「産婦人科 ゆずり葉」が桑名市にできました。

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 『お産、それはかけがえのない「いのち」との出会い、対面の時。あなたがあなたらしくお子さんを迎えられるよう、お産の家 ゆずり葉では、あなたに寄り添い、お手伝いをさせていただきます。(お産の家 ゆずり葉)』

 30年の間、多くの赤ちゃんの誕生場面に立ち会われた院長先生が、新しいいのちを生み出すことを、どういう環境の中で準備し、迎えてほしいと考えておられるか、その思いが伝わってきます。そのために用意されたのは、『いつ来ても安心、何を言っても安心、どんなに泣いても笑っても安心、ありのままの自分を受け入れてくれる場所』です。

 その思いをいかすお庭をつくってほしいとのことでした。


●「修景」 計算されたながめをデザインする

 「産婦人科 ゆずり葉」には、「お産の家 ゆずり葉」と、多目的ルーム「ふれあいの村 ひとだまり 」が併設されており、そのどちらからも「眺めていると心が落ち着くような庭をつくってほしい」というのが、院長先生のご希望でした。建物も、建築家の設計による和風の建築で、古都の山裾にでもあるような瀟洒な構えです。

 浮かんだキーワードは、「山の辺の道」。大きな自然・世界に抱かれて、いのちをつないで生きる。日本人の心に響く悠久の自然の風景。それは、故郷の野山の原風景なのではないかと感じました。

 子どもの頃の記憶をたどってみると、浮かんだのは、父と近所の里山を歩きまわった思い出。坂道には石垣が作ってあって、その先はみかん畑でした。風に吹かれて竹林がだす葉ずれの音。水を張った田んぼ。かえるの声、いきものたちの気配。みかんの花のにおいも強烈に覚えています。

 これを、どのように「ゆずり葉の庭」で表せばよいか。浮かんでくるいろいろな感覚を描いては消し、加えては削りを重ねました。


●「素材」 そこにあるものに、もう一度いのちを

 もともとそこに植えられていた、院長先生が小さな苗から育て大きくした木々を、どこかに使えないか。色とりどりの紫陽花、自由に伸びたシマトネリコ、挿し木でふやしたワビスケ、イヌマキやソヨゴなど。それは野山に普通にあるもの、昔から日本の野山に生えていたもの、またはその品種改良されたものたちです。

 また、建物が立つところの土壌改良のために掘り上げた土砂の中に、岩砕(岩がくだけて出来た10~20センチくらいの小石)がたくさんふくまれていて、それが敷地に山と積まれていました。院長先生は、これもどこかに活用できないかと希望され、選別する作業を、自ら延々と続けられました。

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 樹木は、移植をする半年ほど前から根回しなどを施し、入念な準備をして、それぞれの樹形を活かしてデザインに組み込んでいきました。岩砕は、巾3メートル・長さ30メートルの産院へと続く道に、石畳として採用しました。また正面の庭では、植栽部分の周りを、石積みのようにして土留めに使いました。


●「ストーリー」 そこを歩く自分の心の動きをイメージする

 産室からの眺めは、見おろすような感じ。待合室からだと、横からのぞき込むようになります。「ひとだまり」からは、すべてが一望できます。落ち着きと広がり、包み込むようなやさしさ、そういうものをいろいろな角度から見たときに感じられるような工夫を随所に入れました。

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 まわりは昔からの田んぼと工業地帯と駐車場です。借景を活かすことは難しいので、視線が庭の中に落ちるよう、低い目線で楽しめるように意識しました。

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 また、広がりを持たせながらも起伏を作り、それをたどることでストーリーが感じられるようにしました。ながめているだけでそこを歩いて行く自分をイメージできます。ちょっと奥に入ると、ここはこうなっている。ここは気持ちいいなぁ、ちょっと立ち止まって休もうかね、というように、いろいろな想像をめぐらせます。

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つづく

川戸由起さんのプロフィール

川戸由起さんのプロフィール写真

桑名市生まれ。
1級造園施工管理技師。
スカイフロントコーディネーター。
名古屋音楽大学音楽学部器楽学科ピアノ専修卒。
1997年ランドスケープアーキテクト小出兼久氏に師事。
同氏主宰の「ランドスケープデザイン塾」講座を修了。
同年、米国ワシントン州立大学にて「海外ランドスケープデザインセミナーを修了。
98年に「リバーズランドスケープデザイン」を設立する。
04年浜名湖花博にて都市緑化技術の庭「カネソウ㈱出展ブース」をプロデュース。
同じく屋内展示では「NPOみどりの風出展ブース」をプロデュースし、共に総合銀賞、他多数部門賞。

  • 三重県桑名市にあるリバーズランドスケープデザインのホームページリバーズランドスケープデザイン(ガーデンプラット版はこちら

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